花岡理事長インタビュー|選択は正しかった、と思えるようにしたい(後編)
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花岡理事長インタビュー|選択は正しかった、と思えるようにしたい(後編)

6組に1組が不妊治療を受けると言われる日本。

妊活や不妊治療の現場の医師たちは、どんな想いを持って最前線に立っているのでしょうか。

はなおかIVFクリニック品川」の花岡 嘉奈子理事長のライフストーリー、後編は、がん治療と並行して出産を実現した、患者さんの奇跡的な体験から、治療に臨むモットーまで伺います。(前編はこちら)

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全ての選択肢を並べる

──どんなことをモットーに治療に臨んでいるのでしょうか。

残念ながら、クリニックに患者さんが100人来たら、全員が妊娠するわけではありません。患者さんを2〜3カ月続けて見てみると、大体その人の状況がわかってきます。

大切なのは「選択肢」を与えることです。

でも、「あなたにはこういう選択肢です」という直球でいくのが正しいわけではない。というのも、中には50歳まで普通に妊娠すると思っている患者さんもいます。

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普通の会話をしながら、妊娠・出産・不妊の知識をどれだけ持っているかを探りつつ、現在の患者さんに、本人の状況を正しく理解してもらう。

その上で、例えば45歳だったら、日本ではできないけれど卵子提供という選択や、養子縁組という選択があることも伝えます。

どのような選択であれ、患者さんが50歳になった時に、「あの時の選択肢は間違いじゃなかった」と思えるように、全ての可能性を示したい。
女性が自分で決断できる様にしてあげたいという思いが強いですね。

思いを貫いた女性

──これまでの中で、記憶に残る患者さんはいるでしょうか。

乳がんで治療をした30代後半の女性がいました。彼女が妊娠をした一連の体験は、忘れられません。

彼女がクリニックに来た時、乳がんで抗がん剤を打っていました。FSH(卵胞刺激ホルモン)の血液濃度が100〜150で、閉経に近い形でした。つまり、ほとんど卵巣の卵子がない状態だったのです。

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乳がん治療では、女性ホルモンの「エストロゲン」を抑える治療をするので、卵子の育成を促進するエストロゲンは使えません。

それでも本人としては強い意志を持っていて、リスクがあってもエストロゲンを打って採卵したいというものでした。

がんの再発が心配だと言っても、彼女の意思は硬く、構いませんと言うのです。がんの治療の担当医にも相談し、最終的に相当量のエストロゲンを使いました。

それでも、4カ月に一度くらいしか採卵できない。しかも、一度に一個の卵子しか取れないような状況でした。

しかし、彼女は粘って粘って、願いを叶えました。

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1年半ほどかけて3回採卵、体外受精したのですが、最後に成功したのです。
彼女が妊娠した時は38歳でした。

その後、子どもが2歳になってもう一人チャレンジしたいと、またクリニックに通い始めました。すると、あっという間に二人目を授かったのです。

最初は、刺激をしても卵子はもう出てくる可能性はゼロに近いと思っていたので、卵子が見えた時は、可能性が見えたと鳥肌が立ちました。

それでも、そこから妊娠というのは大きなステップです。そこを乗り越えたのは奇跡に近い。

この事例を目の当たりにした時、想像を超えた場合があるのだと実感しました。経験値は必要だけれど、経験からの思い込みが当てはまらないこともあるのです。

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完璧なクリニックを求めて

──どのようなクリニックを目指しているのでしょう

自分のクリニックを立ち上げた時に思ったのは、患者さんたちとできるだけ話しがしたいということです。

また、クリニックではスタッフも、患者さんの質問に答えられる、不妊治療の知識を持った人材に育ってもらいたいと思っていました。

2008年の設立から、数十人が入ったり出たりしましたが、ちょうど1年ほど前から、納得のいく体制ができ上がってきました。

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不妊治療にまつわる仕事が本当に好き、という人を見つけるのは簡単ではありませんでした。

まず優秀なスタッフを見つけると言っても、医師の私たちが彼女・彼らたちから尊敬されるような仕事ぶりをしていないと、きっとそこでは働きたくなくなりますよね。

高い技術に加え、患者さんへの対応など、この医師の下で働きたいという思いを持ってもらわないと続かない。

でも、これは教えるというより、「私たちのしていることを見ていてくださいね」という感じでした。

時間はかかりますが、私たち医師が気を抜かずに丁寧に仕事をすれば、それをきっと見てわかってくれると思ったのです。

「うちの先生に任せておけば大丈夫ですよ」と、スタッフの口から自然に出てくるのが理想、そう思って努力しました。

今は、知識の豊富な素晴らしいスタッフたちが揃っていますよ。

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不妊治療医の夫婦の掟

──同じ分野の医師で、夫婦。仕事、プライベートでどんな影響がありますか。

夫も私も不妊治療を専門にしているので、分野は全く同じ。そのため、仕事場でも家でもずっと仕事の話をしていたのです。

でも、三年前に家で仕事の話は禁止にしました。

理由は言い合いになるからです。仕事の話を家ですると、「患者さんから採卵するのが1日早かった」とか、「明日まで待ったらもう少し卵子が取れた」という話になってしまうことがあって。

花岡家の場合、私の方が年齢が上で、医師の経験も10年ほど長い。夫からすると私が指導しているような口調に聞こえてしまうようなのです。

そんなつもりはないのですが、せっかく家は休む場所なのに、どうして疲れちゃうんだろう、と話し合いました。

そこで、家に仕事の話を持ち込まないようにしたわけです。

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どうしても仕事の話をする時は、家の中でもメールを使いますよ(笑)

「この患者さんは、明日こういう予定になっています」とメールすると、夫から「了解」というメールがきます。

家の中にいるのだから、話しかければ済むことだろうと思うかもしれません。でもこれが、ちょとだから、と言って話し始めると、ちょっとではなくなってしまうのです。

普通だと「ねえねえ」となるところが、メールだと「正智先生、おはようございます。以上よろしくお願いします。」と丁寧にもなります。

この方法を始めて、仕事のコミュニケーション、夫婦の間もとても良くなりました(笑)

互いに仕事の分野が一致しているのは、医師として大変心強いもの。ただ、そこを夫婦としてどう両立させていくか、そこには一定のルールも必要なのです。

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Grace Bank(グレイスバンク)は、「女性が願うあらゆるライフプランが社会的制約なく叶えられる未来の創出」をミッションに、女性の医学的機能や妊孕性についての啓発活動を行いながら、みなさまに安心してご利用いただける「選択的卵子凍結」のプラットフォームを整備していきます。 ​